嚥下や飲み込みの異常と診断・治療について
嚥下や飲み込みの異常と診断・治療について

食事中にむせる、飲み込みにくい、食事に時間がかかるといった症状がある場合、摂食嚥下機能に何らかの異常が生じている可能性があります。嚥下障害は、単なる不快感にとどまらず、誤嚥性肺炎や栄養不良、筋力低下など、生命や生活の質に深く関わる重大な問題です。
特に高齢者においては、誤嚥性肺炎が日本人の死因の第6位を占めており、超高齢社会において避けて通ることのできない重要な課題となっています。むせや飲み込みの障害があると、十分な栄養が摂取できず、体重減少や筋肉量の低下(るい痩)が進行し、フレイル(虚弱状態)を引き起こします。フレイルは、日常生活の活動性を著しく低下させ、転倒や寝たきりのリスクを高めるため、早期の対応が求められます。
経口摂取は、生命を維持するために極めて重要であり、可能な限り口から食べることを支援することが医療の基本方針です。
嚥下障害の診断には、医師による問診と身体診察に加え、歯科口腔外科との連携が不可欠です。噛む力が弱ければ、食事を安全に摂取することは困難になります。また、口腔内の衛生状態は嚥下機能に大きく影響するため、口腔ケアの徹底も重要です。
当院では、隣接する木村歯科医院と連携し、口腔内や歯牙の状態を評価したうえで、食べることができる環境づくりを目指した治療を行っています。
初診時には、患者さんご本人やご家族から、食事の様子について詳しくお話を伺います。具体的には、以下のような点を確認します。
これらの情報は、摂食嚥下障害の有無や重症度を判断するうえで非常に重要です。診断には、藤島先生監修の「摂食嚥下障害質問紙(15項目)」を用いることが標準的です。
嚥下機能の診察では、発声や呼吸の状態、口唇や舌の動きなどを確認します。具体的には、「パパパ」「タタタ」「カカカ」といった単音を繰り返していただき、呼吸のリズムや口腔器官の可動性を評価します。
また、口腔内に何も入っていない状態で嚥下していただき、喉頭(のど仏)がしっかりと挙上するかを確認します。喉頭の挙上が遅れる場合、誤嚥のリスクが高まるため注意が必要です。唾液でむせるような場合には、飲水やゼリー食を用いた検査が困難なため、まずは間接訓練から開始します。
口腔・咽頭・喉頭の可動性がある程度保たれている場合には、嚥下状態の詳細な評価を目的として「嚥下内視鏡検査(VE)」を実施します。
この検査では、鼻孔に局所麻酔を施したうえで、細い電子スコープを経鼻的に挿入します。スコープを通じて、以下の部位を観察します。
検査が可能であれば、着色水や着色ゼリーをスプーン1杯程度口に含んでいただき、咀嚼・嚥下の様子を観察します。嚥下時に「ホワイトアウト(視野が白くなる現象)」があるか、嚥下後に梨状陥凹や喉頭に残留物がないかなどを順番に確認します。
嚥下内視鏡検査だけでは評価が難しい場合や、食道の通過障害・誤嚥の有無をより詳細に調べる必要がある場合には、「嚥下造影検査(VF)」を行います。これはX線透視下で造影剤を用いて嚥下の過程を可視化する検査で、嚥下の専門医に依頼することもあります。
嚥下機能の評価結果に基づき、嚥下リハビリテーションの適応を判断します。言語聴覚士と連携し、食事の形態(刻み食、とろみ食など)や食事時の姿勢について相談します。また、管理栄養士とも協力し、ご家庭で作りやすく、かつ栄養バランスの取れた食事内容について提案を行います。
経口摂取によって十分な栄養が得られない場合には、以下のような栄養管理法を検討します。
栄養状態が改善すれば、筋力低下を防ぐための運動リハビリテーションも併用し、フレイルの予防に努めます。
嚥下リハビリテーションを行っても十分な改善が得られない場合には、外科的治療を検討します。外科的治療には以下の2つの目的があります。
嚥下障害は、単なる「食べにくさ」ではなく、命に関わる重要な症状です。早期の診断と適切な治療によって、誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の改善、生活の質の向上が可能となります。気になる症状がある場合は、どうぞ遠慮なくご相談ください。丁寧に対応いたします。
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